SPECIAL TALK
松下優也/有澤樟太郎/清水美依紗
YOUNG DAIS/別所哲也
苛烈な運命の渦に巻き込まれていくジョジョを今回Wキャストで演じる松下優也、有澤樟太郎。ジョジョに献身的な愛を注ぐエリナ役の清水美依紗、ジョジョと行動を共にするスピードワゴン役のYOUNG DAIS。そして、ジョジョに大きな影響を与える父ジョースター卿役の別所哲也。『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』をミュージカル化すべく、稽古の日々を送る5人の想いとは。
※舞台の内容に触れている部分がございますので、開演前にお読みになる場合はご注意ください。
――熱烈なファンの多い漫画が原作です。反響の大きさなどは感じていますか?
松下 普段、僕が舞台に出るとなっても連絡をしてこない友人からも連絡がくるんです。舞台やミュージカルを観ない層も興味を持っているって、すごいことですよね。
有澤 僕も、出身地の兵庫公演があることもあり、今まで劇場に足を運んだことがないような友だちも「行く」と言ってくれています。加えて、特に男友だちなどは、DAISさんが出演されたりと、ミュージカル畑の人だけではないバラエティに富んだキャストだというところにも惹かれているみたい。
清水 私は……兄が喜んでいます。
松下 いいねぇ~。
清水 双子の兄が、『ジョジョ』をすごく好きなんですよ。その影響で私も小学生の頃にアニメ版を見ていました。その兄が「お前、エリナやるん!?」って(笑)。
DAIS 僕は北海道在住なのですが、情報解禁された時に地元のコンビニのおばちゃんが「『ジョジョ』出るんでしょ」と言ってきて、『ジョジョ』すげぇ!と思いました。札幌で公演があるということもあり、そのコンビニでこのミュージカルの宣伝をしていたのもアツかった(笑)。
別所 僕は原作にのめり込んでハマったという世代ではないのですが、僕の場合も、ミュージカルをあまり観ない知人から連絡をいただいたりして、周囲のリアクションのすごさに驚いています。実は、2016年に「ベストドレッサー賞」というものをいただいたのですが、その時に原作の荒木飛呂彦先生と一緒に受賞しているんですよ。
一同 えー!
別所 そのあたりから作品のことは意識してたかな。
清水 素敵なご縁ですね。
――人気キャラを演じる皆さんですが、ご自身の役の印象と、アピールポイントをお願いします!
松下 この漫画は表面的に見ると、インパクトの強いシーンや表現方法が冴えていて、ジョジョもぶっ飛んだキャラクターに思われがち。でもシーンごとの思考を繋げていくと、とても“普通のヤツ”だなと感じています。
有澤 そうですね。僕も最初は、有名なセリフやシーンがたくさんあるので、勢いで突っ走る感じになると思っていたのですが、一緒に稽古をしていく中で、“そのシーンに至るまでどういう心情なのか”を大切にする必要があるなと思い始めました。製作発表の時は「ジョジョは突き抜けた真面目さ、突き抜けた正義感がある」と言っていたのですが、根っこには真面目な要素はありつつ、温室育ちで愛らしく、お人よしな一面もある。それが物語が進むにつれ、色々な悲しみを経験し、内面も肉体的にも研ぎ澄まされていく。ジョジョの成長物語でもあるというところを大切にしたい。
松下 うん。最初は怠け者なところもあるし(笑)、紳士になると言いながらも真逆のヤンチャさがある。でも火事場の馬鹿力的な、何か起こった時に出てくる潜在的な能力があって、自分でもそれを使いこなせてはいないけれど……ってところがジョジョのカッコ良さかな。加えて、ディオに引っ張り出されるジョジョらしさ、ジョジョに引っ張り出されるディオらしさがあると思うので、その表裏一体感は大事にしたいですね。エリナは、どう?
清水 エリナは強く、誇り高い女性。星みたいだな、って思います。ジョジョとディオはもちろん、様々な人の運命を遠くから見守っているような。悲しいことも愛も何もかもを受け容れている器の大きい人。……演じる上ではものすごく難しいのですが。
松下 星、いいね。原作にも出てくるけれど、今回のミュージカル版では“星か、泥か”というのが重要なモチーフになっているしね。スピードワゴンはとにかくラップがかっこいいですよね。
有澤 語り部としても登場するというのは、原作にはないところですよね。本当にかっこいいです!
DAIS ハードル上げないで(笑)。僕はラップのリリック作りにも関わらせてもらっていますが、ワードチョイスが難しくて。寧さんも大切にしている“格差”“貧困”という言葉や、今の“星と泥”など、ラップで言う時に伝わらないといけない部分の精査が重要になるので苦労しています。ただスピードワゴンは食屍鬼街という貧困街の出。もともとラップは黒人文化から出てきているので、貧困や差別という部分でシンパシーがあり、スピードワゴンがラップするということに対して違和感はありません。
――別所さんはジョジョの父のジョースター卿役を演じられますね。紳士の中の紳士というのがぴったりです。
別所 とんでもない。ジョースター卿は『ジョジョの奇妙な冒険』が始まる出発点。『ファントムブラッド』はディオにジョジョが触発され、化学変化が起きて物語が転がっていくけれど、ギリシャ神話の時代から父・母の存在は、永遠に人間が背負う宿命です。だから品格や紳士たる意志、継承すべき精神性など、常にジョジョの後ろに父の存在が見え隠れする。彼の信念を通して人間とはなんだ、生きるということはなんだ、運命という言葉で片付けるな、というメッセージにたどり着けたらいいなと思います。“星か、泥か”も、最初にジョースター卿が話すんだよね。「牢獄で鉄格子の外に見ていたのは目の前の泥だろうか、それとも頭上に輝く星だろうか」という話。これは深いですよね……。
松下 ディオは泥を見ていたと言い、ジョジョは星を見ていたと言う。つまりディオは這いつくばってでも手に入れるという結果を大事にする人で、ジョジョは結果より過程が大事なのかなって。どちらが正解ということではないと思っているし、それはお客様に委ねる部分でもありますよね。
別所 これは今の混沌とした時代にも通じると思うしね。現実に起きている戦争も、戦ってでも掴み取る必要があると考える人、あるいは平和こそ一番という理想を諦めては人間じゃないという人、それぞれいる。そんな正反対のようなジョジョとディオが、でもどこかで繋がっている不思議。
松下 まさに僕は、ディオがいることでジョジョが成長できたと感じています。ディオと出会わなかったら、彼はもしかしたら、体力を持て余した不良みたいになっていたかもしれない。
有澤 僕もディオあってのジョジョだとは思いますが、それに加えて父の影響の大きさを感じています。死んだ後も父の存在がジョジョの中にあって、思いなどを継承している。それ以外にもまだまだ掘り下げていくところはたくさんありそうです。
松下 どうしても漫画原作って再現度を重視することが多いですが、今回僕はキャラクターの細部にこだわるより、全体の構造の中でどう作っていくかが大事なんじゃないかなと思うんです。漫画の印象的な部分は大事にしますが、それを忠実に再現するためには、キャラクターをしっかり人間として造形しないといけないなって。
――インパクトの強い名シーンの数々に血を通わせるために四苦八苦、というのが伝わってきましたが、とはいえ観客としては「あのシーンをどう舞台で表現するの?」等々は気になります。皆さんもお稽古を見ていてテンションが上がることもあるのでは。
松下 僕はツェペリの登場シーンは印象的だなー!
有澤 僕も、そう表現するんだ!と思った。「メメタァ」も出てくるし。
別所 そういうところは、もう拍手!!ですよね。
有澤 思い切って言っちゃう!みたいな(笑)。ディオの「URRYYY」も。
DAIS 「URRYYY」ねー! 皆さんがおっしゃったシーンは、全部楽しいです(笑)。
――そして1ヵ月ほど稽古が進んでいますが(※取材時)、現時点の心境は。
松下 “新しいもの”を作っている感覚はすごくあります。ミュージカルって振付、アクション、お芝居を別々で作って、後で合わせることが多いのですが、今回は寧さんが演出も振付もなさっているので全部同時に作り上げていくというのも大きい。
有澤 僕らとしても新鮮です。時間をじっくりかけながら、先日も1幕第4場を1週間かけて作りましたよね。寧さんは自分から動きを見せてくださるんですけど、いつもまさに『ジョジョ』!という動作で。その動きが難しいんですよ。
DAIS 僕はミュージカルが初めてで、何もわかっていない状態なので「こういうものだ」と受け止めています。でも皆さんがこれは相当大変だと言うから、僕はすごいところから第一歩を踏み出すんだなとニヤニヤしている(笑)。美依紗ちゃんもじゃない?
清水 そうですね、私もまだミュージカルは3回目なので不安な部分もありますが、原作にはないエリナの心情も歌の中で描かれていたりもするので、きちんと自分の歌声でそれを表現していきたいです。
松下 美依紗ちゃんの歌声をまだ稽古場で聴けていなくて、聴くのがすごく楽しみです。稽古ではやることの分量が多くて追いつかないくらいなんですけど、やりがいがすごくありますね。
別所 とにかく全員、熱量が高いよね。ギリギリまで試行錯誤をやめないぞという覚悟がビシビシと伝わってくる。クリエイティブチームが「どう新しく生み出すか」にチャレンジしている。熱量が“固めない”“試す”という方向へ向かっている。
松下 舞台に限らずあらゆる分野で分業が効率よいとされている時代ですが、『ジョジョ』は全員で一つの集合体になって新たなものを切り拓いている感覚ですよね。それは僕らキャストも含めて。寧さんもすごく僕たちの想いを聞いてくださいますし。
別所 本当にクリエイティブでいい現場だと思う。皆でディスカッションもどんどんしていけたらいいね。僕らはミュージカル『ジョジョ』のオリジナルキャストになるんだから。こんなワクワクはないよ!
一同 はい!
(取材・文:平野祥恵)